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SDGs自分ごと化の最前線

女性活躍を言葉だけで終わらせない。DE&Iの正しい理解で、多様性を価値に変える

2023年3月28日

近年、女性活躍推進に力を入れる企業が増えてきています。国からの後押しもあり、マネージャー層の女性比率アップ、賃金格差の是正などに取り組む経営者も多いのではないでしょうか。一方で、数値目標にばかりに目がいき、本当の意味で女性が活躍できるためのDE&I(Diversity, Equity & Inclusion)が正しく浸透していない会社も多いです。

今回は、総合人財サービスを展開するAdecco Group Japanにてサステナブル・トランスフォーメーションの責任者を務める小杉山様に、DE&Iとは何か、どのようにして会社に取り入れるのかを伺いました。

プロフィール

小杉山浩太朗

2016年ニューヨーク大学(NYU)へ進学し、ニューヨークで3年、マドリッドで1年を過ごす。

国際問題の根本的な解決、持続可能な開発の実現のために、国連やNGO、企業などとさまざまなアクションを展開。2019年には世界のユースリーダー代表として国連総会議長より国連本部での各国大使とのパネルに招待されている。2020年7月よりAdecco Group JapanにおいてSDGsを根幹に反映した企業の在り方を実現すべく、サステナブル・トランスフォーメーション(SX)の責任者として活動する傍ら、企業や個人へのコンサルティングや研修も行っている。2022年、SDGs経営やBeyond2030の在り方についての著書出版。

DE&Iは事業創出の源泉である

まず、改めてDE&Iについて解説をお願いします。

DE&IとはDiversity, Equity & Inclusionの略で「Diversity(ダイバーシティ、多様性)」「Equity(エクイティ、公平性)」「Inclusion(インクルージョン、包括性)」の3つの言葉からできています。

近年、社員それぞれが持つ多様性(=Diversity)が組織としての強みとして活かされている(=Inclusion)環境を実現したい企業は増えていますが、DE&Iについて誤解をしている会社も少なくありません。とくに勘違いしやすいのは2点です。

まず1点目は「多様性」という言葉の捉え方です。最近よく耳にするようになったことで、まるで新しく生まれたもののように思う人もいますが、そもそも多様性とは昔からあったものです。

多様性に含まれるのは、人種や国籍といった見えやすいものばかりではなく、価値観や性的志向といった見えにくいものもあります。それらは、いつの時代も一人ひとりに備わっているもので、近年新しく生まれたものではありません。

2つ目は「公平性」という言葉の捉え方です。誰に対しても等しく同じ扱いをすることが「公平」だと捉えている方もいますが、厳密にはそれは「平等」であって「公平」ではありません。公平とは、個人の違いも考慮しながら偏りがないようにするという考え方のことです。

場合によっては、多数派からすると不平等に思えるような措置も、今ある格差を是正するため、公平性の観点から導入されるケースもあります。

なぜ、DE&Iに取り組む経営者が増えているのでしょうか。

社会課題解決のための事業創出には、多様な視点を入れることが重要だからです。例えばメーカーの場合、社内の多様性を商品開発に反映させることで、多様な消費者のニーズに答える商品を生み出しやすくなります。

最初の課題設定が、たった一人の視点でなされるのと、多様な視点からなされるのとでは、課題の質がまったく変わります。また、商品やサービスの開発・改善のプロセスでも多様な視点があるのとないのとでは、出来上がるものが大きく変わってきます。​​

数値にこだわる日本のDE&I

DE&Iを経営に取り入れるとき、何が課題になるのか教えてください。

DE&Iの本来あるべき姿は、経営や事業創出の意思決定に多様性が取り入れられることであるにもかかわらず、目に見えやすい数字ばかりを追いかけて、肝心の環境づくりにまで手が行き届かないことです。

例えば、女性管理職の比率を上げただけで満足し、その先の女性管理職が個性を発揮して働ける環境づくりにまで気を配れていないことも多いです。

目に見えるわかりやすい指標を追いかける傾向は日本全体で見られ、経営・人的資本・多様性といったサステナビリティ情報を開示するように政府が定めたことも大きく影響していると考えられます。今の日本のような状態を「カテゴライズのフェイズ」と呼びます。

繰り返しですが、本質的なDE&Iを実現するには、カテゴライズのフェイズから脱却する必要があります。

アンコンシャス・バイアスに気づく機会を提供する​​

どうすればカテゴライズのフェイズから脱却できるのでしょうか。

まずは社員一人ひとりに、自分の中にあるアンコンシャス・バイアス(=無意識の偏見)に気づいてもらうことから始めるべきです。

「子育て中の女性には、この仕事は任せられない」「男性は育児休暇を取る必要はない」といった考え方は全て勝手な思い込みからくる偏見にすぎません。これらの考え方は社員の意思決定に大きな影響を与え、DE&Iの浸透を妨げます。この思い込みをなくすためには、一人ひとりが自分の特性や考え方の癖を客観的に把握し、自分も何らかのマイノリティの一員だと捉えられるようになることが重要です。

例えばAdecco Group Japanでは、有志が集まって障害者に対する理解を深めるイベントを開催しました。そのイベントではそもそも障害の「ある人」「ない人」で分けること自体がおかしいのではないかという問題提起が行われ、どんな人もそれぞれが、自分らしく働くために必要なものを持っている、というメッセージが投げかけられました。

イベントの開催以外に、上長とチームメンバーが業務以外の話もできる1on1ミーティングの機会を定期的につくることも有効だと思います。それによって信頼関係が生まれ、自分のことをさらけ出せる心理的安全性がつくられます。メンバーにとっては自分の個性をより発揮しやすくなるでしょう。

一番やってはいけないのは、この取組を「人事の仕事」にしてしまうことです。会社の中で一部の人だけが取り組んでいる活動になってしまうと、社員一人ひとりが自分事として捉えることが難しくなります。そうなると、いつまでたっても数値目標を達成させるカテゴライズのフェイズから抜け出せず、会社の事業全体に良い影響をもたらすような、本質的なDE&Iには届かないでしょう。

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