事例紹介
INTERVIEW
ウフフドーナチュ旧軽井沢
子育て中でも能力を活かして活躍できる職場に。スタッフ一人ひとりに寄り添い、働きやすさとキャリア形成を実現
2023年3月17日
軽井沢町の旧軽井沢エリアでドーナツ専門店「ウフフドーナチュ」を営む株式会社ウフフ。働くスタッフ全員が主婦で、その中のほとんどが子育て中の女性というこのお店では、創業当時から女性の働きやすさと、能力を活かせる環境づくりに積極的に取り組んでいます。また、ドーナツの廃棄を削減する仕組みづくりや、農家とのコラボレーションによる規格外の野菜を使用した商品開発など、フードロスゼロ活動にも力を入れています。同社の代表取締役社長の志賀 嘉子(しが よしこ)さんに、具体的な取組内容や思いについて伺いました。 *以下敬称略
子育て中でも、能力を活かせる職場をつくりたかった
「ウフフドーナチュ」で働く方たちのほとんどが、子育て中の女性だと伺いました。
志賀:はい。2015年にオープンした金沢店も含めてスタッフの全員が主婦で、多くが小さいお子さんを育てている“ママさん”です。中には、将来子どもを授かりたいから先に働く環境を改善したいという方や、お孫さんがいる年代だけど理念に共感して来てくれた方など、さまざまな女性が一緒に働いてくれています。
当初から、子育て中の方をはじめとした女性の働きやすさを意識してお店をつくったのでしょうか?
志賀:そうですね。ママさんが子育て中でも能力を活かせる職場をつくりたくてスタートしました。私自身、以前はウエディングプランナーや出版社の編集長の仕事をしていて周りに女性が多い職場だったのですが、仕事はハードで長時間労働が当たり前でしたし出産後の職場復帰もなかなか難しい環境でした。
一緒に働いていた優秀な同期たちも出産を機に退職し、子どもの保育園のお迎えまでにできる仕事を選んでいる状況を見て、すごくもったいないし悔しいと思ったんです。“ママさん”と一言でいっても一人ひとりに経験と能力があるのだから、それらを結集することで、ママさんたちだけでも会社を運営していけるのではないかと思い、起業を考え始めました。
なるほど。この会社やお店をつくること自体が、女性活躍を推進するSDGsアクションですね。
志賀:当時はまだSDGsという言葉自体知りませんでしたが、今思えばそうですよね。そこから女性が働きやすい職場づくりをテーマに事業内容を考えていった結果、できあがったドーナツを冷凍して配送する「焼成冷凍ドーナツ」の卸販売に辿り着きました。
以前は私もバリバリ働いていて、“自分だからこそできる仕事”というのはすごくやりがいがありましたが、出産して子どもを育てながらとなるとどうしても負担がかかります。そこで起業にあたっては、仕組みをつくれば誰でもできることをベースにしつつ、一人ひとりの能力を広げる余白のあるものが良いと考え、製造の仕事を選びました。また、完全な店舗営業ではなく卸販売をメインにすることで、時間に縛られずに家族と一緒に過ごす時間もつくれるのではないかと考えたんです。
商材としてドーナツを選んだのには何か理由があるのでしょうか。
志賀:最近のママさんは共働きで忙しい方も多いですし、なかなか子どもにおやつをつくる時間がとれない分、私たちが手づくりの味を届けたいなと。そのなかでドーナツを選んだのは、「だいたいの子どもが好きだから」という本当に安易な考えでした(笑)。
ただ「焼成冷凍ドーナツ」は賞味期限が長いですし、冷凍すると通常のドーナツに比べしっとりして美味しくなるという特徴があるので、結果的に良い商材だったなと思います。
スタッフ一人ひとりの状況と能力に寄り添う
オープンして以来、女性が働きやすい環境づくりのために意識して取り組んでいることがあれば教えてください。
志賀:まずはシフトですね。当社には固定のシフトがなく、スタッフ28名全員が異なるシフトで働いています。働く曜日や時間帯もばらばらで、なかには時間を決めずに子どもを見送って準備ができ次第出勤という方もいます。私も子どもがいるので、子どもの気分が毎日変わることを知っていますし、そこにきちんと向き合いたいというママさんの気持ちもわかるので、あえて時間を決めずにこうした形式にしています。
そういった希望は3ヶ月に1回程度、スタッフ一人ひとりとの面談でヒアリングしています。子どもが小学校に進学するから、学童に慣れるまでの間は長く働けないとか、少し手が離れたからもう少しシフトを増やしたいとか。もちろん小さい会社なので、すべて叶えるのは難しいですが、なるべくそれぞれの事情に寄り添ってシフトを組むようにしています。
すごく親身ですね。しかし一人ひとりに寄り添った結果、製造の人手が足りなくなってしまうなど、仕事に支障は出ないのでしょうか?
志賀:たしかに、入学式や授業参観などのタイミングが重なって、スタッフの休暇が集中してしまうことはよくあります。その場合は製造タイミングを調整して多めにスタッフが出勤できる日に一気終わらせるなど、スタッフ同士で助け合っています。ありがたいことに、取引先の皆さまにも私たちの状況にご理解をいただいているので、製造量や納品のタイミングを調整させてもらって上手く運営できていますね。
ちなみに、お子さんがいないスタッフの方もいらっしゃるなかで、勤務時間に偏りが出て不満が生まれてしまうこともないでしょうか?
志賀:なるべく人数に余裕を持ってスタッフを雇用し、特定の人に負荷がかかりすぎないようにバランスを取っています。同時に、日頃の何気ないコミュニケーションを大切にして、スタッフ同士がお互いの環境を理解し合えるような配慮をしています。
もし別のスタッフに対して何か思うことがある場合は、勝手に自分の中で解釈したりもやもやしたりするのではなく、直接本人に聞いてそれぞれの考え方や事情に対する理解を深めていくことを全員で心掛けています。
当初志賀さんが思い描いていた「女性のたちの能力を活かす」という部分に関してはいかがですか?
志賀:スタッフ一人ひとりが思い描く未来を把握して、どんなポジションについてもらうかを考えるようにしていますね。私の経験上、“自分が苦手なことは誰かの得意”だと思っているので、面談でヒアリングしたり、営業のスタッフで集まって「自分が苦手な仕事を言う会」を開催したりしています。
もし他に得意な人がいれば、スタッフ同士で仕事を交換することもありますし、人手が足りない場合は補ってくれる人を採用することもあります。
一人ひとりの得意なことに応じて柔軟に配置を変えることで、効率も上がりそうです。
志賀:そうですね。また当社では、得意分野を活かしてスタッフが独自で取組を始めるケースもあります。たとえば、以前会計事務所に勤めていたスタッフが経理部を立ち上げて、お金周りの仕事を引き受けてくれたり、元保育士のスタッフが手描きのイラストでチラシをつくってくれたり。
「やりたい」という気持ちをもとに、みんなが自発的に新しいことに取り組むことで、会社が上手く回っていくならすごく良いですよね。
ドーナツを売り切る仕組みを構築し、フードロスゼロへ
女性活躍の促進に加え、フードロス削減にも力を入れていると伺いました。具体的にどんな取組をしているのでしょうか。
志賀:前提として、廃棄を最小限にするために完全受注生産にしています。また、受注生産の際に多少多めにつくって余ったドーナツは、おまかせの「アソートセット」として納品させていただいたり、私たちの店舗で万が一売り切れなかった場合には、冷凍したものをECサイトでアソートセットとして販売したりして、なるべくロスを生まないように取り組んでいます。
先ほども申し上げたように「焼成冷凍ドーナツ」は賞味期限が長いですし、30分程度の自然解凍で食べられる状態になります。そのため、出荷先のお店様にとってもお客様が少ない日には店頭に出す数を減らすなどの調整がしやすく、廃棄を生み出しにくい設計になっています。
こうした廃棄を減らす仕組みは、お店のオープン当初から確立していたのでしょうか。
志賀:すべてを売り切る仕組みを構築するまでには2年かかりました。この軽井沢店をオープンしたばかりの頃は、アソートセットで販売できる卸先もまだまだありませんでしたし、在庫で冷凍庫がいっぱいになってしまったことも。
そうした行き場のないドーナツを捨ててしまうのではなく、子どものために使ってもらいたいと思い、児童養護施設に寄付しました。その施設には50人の子どもたちがいて、おやつ代が一人100円。捨ててしまうはずだったドーナツを寄付するだけで、5,000円を寄付するのと同じくらいの価値になり、創業当時、赤字経営者だった自分にも社会貢献ができるのだと実感した出来事でしたね。ドーナツのロスがなくなった今でも、児童養護施設には定期的にできたてのドーナツを寄付する支援活動は続けています。
また、農家の方とコラボレーションして規格外の野菜を使ったドーナツの開発にも取り組んでいます。以前、地元の特産品を活かしたドーナツをつくろうとした際に、農家の友人に相談したことがきっかけでスタートし、規格外で売れなかったりコロナ禍の影響で余ってしまったりした野菜を積極的に仕入れて商品化しています。昨年は長野県産の規格外ケールを使ったドーナツを開発しました。
ドーナツを通して、野菜のフードロス削減にも寄与しているのですね。これらに取り組む背景には、どんな思いがあるのでしょうか。
志賀:やっぱり、捨てるというのがどうしてもできないんです。家庭でも、自分が心を込めてつくったおやつを捨てることはしないですよね。
私たちはそういう気持ちの延長で仕事をしているので、同じくママさんであるスタッフ一人ひとりに意見をもらいながら、できることから取り組んでいます。店頭では、手作りなのでどうしてもできてしまう形の悪いドーナツを集めたセットを手頃な値段で販売していますが、それもスタッフのアイデアから生まれた商品です。
全国の子育て中の女性を後押しできるチームに
ここまでの取組を通じて、何か手応えを感じていることはありますか?
志賀:楽しく働いてくれているスタッフの様子を見ると、経営者としても取り組んできたことに自信が持てますし、良かったなと思います。地道に取組を続けるうちに女性が活躍している企業として注目していただく機会も増えて、全国のママさんたちからメールやお便りで応援の言葉をたくさん頂くようになりました。
またコロナ禍で、子どもの保育園や学校の一斉休校で会社を休まざるを得なかった時期に、会社への差し入れとして当社のドーナツを選んでくださる方もたくさんいらっしゃいましたね。まだまだ若い会社ですが、全国のママさんに「ママさんたちだけでもこんなことができるんだ」と刺激を与えつつ、一歩踏み出す後押しができるようなチームでありたいなと思っています。
子育て中で自身のキャリアを諦めてしまっている女性たちにとっても、大きな希望になりそうですね。では最後に、今後の展望を教えてください。
志賀:会社の規模が大きくなるにつれてさまざまなポジションを作ることができるので、スタッフがよりいきいきと働ける職場になっていくのではないかと思います。実際に、この軽井沢店の責任者を務めるスタッフも「軽井沢にもウフフドーナチュのお店をつくりたい!」と手を挙げてくれたことがきっかけで責任者を任せることになり、彼女自身大きく成長しましたし、新しい取組に挑戦することはスタッフたちにとっての働きがいにも繋がりますよね。
子育て中だけ当社で働くのではなく、当社でこそやりたいことがあると思ってもらいたいので、挑戦を実現できるようなステージはどんどん準備していきたいです。
志賀さんご自身は、何か挑戦したいことはありますか?
志賀:私はいつもスタッフの“やりたい”をベースにして考えているので、自分自身でこうしたい、というのは実はあまりないんです。スタッフの挑戦したいことやそれぞれの持つ能力に応じて、みんなで「こんなことができそうだね」と話し合って、私たちの会社が私たちの想像を超えてどんどん広がっていくのがとても面白いですし、どうなっていくのかわからないからこそ今後がすごく楽しみですね。
ウフフドーナチュ旧軽井沢
株式会社ウフフが運営する、手作りドーナツの専門店。卸販売をメインに立ち上げたのち、並行して2015年に金沢市で実店舗運営をスタート。2021年には、姉妹店として旧軽井沢店をオープンさせた。ドーナツ販売のほか、ハンドメイド雑貨ブランドの運営や地元農家とのコラボレーションなど、幅広く展開。スタッフは全員女性で、小さな子どもを持つメンバーも多数活躍している。