事例紹介
INTERVIEW
株式会社アルスター
SDGs起点で新設したIoT事業で課題解決に挑戦
2021年10月13日
どんなことをしている企業ですか
株式会社アルスターは、松本市に本社を構え、情報通信設備の建設・保守及び電設・IT系設備の構築工事を主要事業としている会社です。通信事業者のセンター設備から無線基地局、 オフィスや公共施設といった建物内のインフラ、家庭内のインターネットまで、日々の生活に欠かせない情報通信インフラにかかわる設計施工・メンテナンスを行っています。
長野県SDGs推進企業に登録したきっかけを教えてください
国内インフラがある程度行き渡っている現在、中長期的にみると業界の発注量は減少する見込でしたので、新しいビジネスの柱を創出する必要がありました。私は事業を考えるにあたり、SDGsを起点にしたビジネスをしたいと思っていました。世界共通の「ものさし」ですから、SDGsの理念に沿うことで社会にも求められるビジネスが展開できるだろう、と。
登録後は、長野県産業労働部主催の「SDGsを実装する為のイベント」に約半年間参加して勉強し、SDGsの理解を深めながら、当社の各部門でSDGs 達成に貢献できる項目を整理するとともに、事業開発と実証実験を重ねました。
取り組まれた新たな事業とはどのようなものですか
当社の得意分野は情報通信設備の施工です。まったく畑違いのことをイチからはじめるよりも、これまでの経験が活かせる事業を開発したいと思い、見出したのが「IoT」です。当社の強みを生かしつつ、従業員にとっても親しみのある分野だと考えました。
(※IoTとは“Internet of Things”の頭文字。物理的なモノとインターネットをつなげて活用する試みです。)
また、2021年6月にすべての食品等事業者を対象に「HACCP」に準じた食品管理が義務化され、業務用冷蔵・冷凍庫の温度管理などが厳しく求められるようになりました。これにより、食品卸売業のお客様は、「冷蔵・冷凍庫が開きっぱなしになっていないか」と休日も見回るなど、社員にとっては大きな負荷がかかっていましたので、この課題を解決するために、新設のIoT事業で“温度センサーを活用したサービス”の提供を始めました。「アルスターIoT温度管理サービス」は、冷蔵・冷凍庫の温度をセンサーで常時測定し、クラウド上に温度データを蓄積します。データはパソコンやスマートフォンなどで確認できるほか、異常検出時には電話・メールでアラートが届きます。
2020年にサービス提供を始動したばかりですが、食品卸問屋の「株式会社松下商店」様や、最近では長野県の複数自治体のワクチン保管にご活用いただいています。このサービスで庫内温度がいつでもどこでも確認できるようになり、「休日も安心して休めるようになった」と喜ばれました。
このサービスは、当社にとって新しいビジネスの柱であり、お客様の「健全な労働環境」「食品ロスの削減」などにも貢献しています。とはいえ、主力事業に取って代わるような売上を目指しているわけではありません。この事業を通じて、当社の名前を知ってくださる人や地域のお客様と直接つながる機会の増加が大きな収穫です。
今後はどのような展開を考えていますか
当社はSDGsを起点にして新たなビジネスを立ち上げましたが、同じようにSDGsの観点で地域を眺めると、いたるところに大なり小なりの課題が見えてきます。IoTを提供することで、そうした課題に取り組まれている事業者さんと一緒に解決していけるような取り組みを増やしていきたいですね。
最近は、松本市と安曇野市でソバを栽培する「株式会社かまくらや」様と連携して、農業分野におけるデータの利活用に取り組むプロジェクトも始めています。農家の高齢化に伴って、県内でも耕作放棄地の増加が課題になっていて、この耕作放棄地問題の解決を目指している「かまくらや」様の圃場は松本平に1,300枚以上ありましたが、広範囲に及ぶため、収穫の優先順位と適期を見極めることに頭を悩ませておりました。
そこで実証実験として圃場に弊社のセンサー(温度、湿度、土壌水分等)を設置し、農作物の収穫目安とされる積算温度などを記録しました。従来の農業手法を活かしつつ、データ分析を取り入れた生産の仕組みを構築できたことによって、収穫の優先順位付けと適期の見極めが効率的に出来ましたので、今年はソバに加えて、加工用トマトの生産にも、この取り組みを展開して頂いております。
農業は、高齢化や人手不足が深刻な分野のひとつ。IoTの技術を活用すれば課題を解決できる部分がまだまだあると思うんです。当社が新設したこのIoT事業で、信州の豊かな風土から生まれた食べ物を守り、持続可能な農業を支えられたらいいですね。我々にとってデータを測ることはゴールではありません。お困りごとを持っているお客様の課題に対しIoTで解決策を示し、更にその先には、地域の課題解決に貢献したいと考えています。
SDGsの理念「誰ひとり取り残さない」のとおり、誰かにずっと我慢を強いるような関係は立ち行かなくなってしまいます。持ちつ持たれつ良好な関係を築く……といったSDGsの感覚が、取引先の企業や地域の皆さんだけでなく当社の従業員も含めて取り組んでいきたいです。
(関連するSDGs目標)
⑧働きがいも 経済成長も ⑨産業と技術革新の基盤をつくろう ⑫つくる責任 つかう責任 ⑰パートナーシップで目標を達成しよう
お客様の声
株式会社かまくらや
常務 藤本 孝介 様
ソバや農産物の栽培を行う農業生産法人である当社では、耕作面積の拡大、従業員の増加とともに定期的な生育観察や品質管理に課題がありました。特に農業経験が浅い従業員は経験や勘に頼った農業ができないので、科学的なデータによる栽培方法の習得が必要です。しかし導入コストの面などで対策を打つことができない状況でした。
アルスターのセンサーを導入した結果、作物の状況を逐次把握でき、作業の効率化等で効果を実感しました。今後はデータの集積を重ね、収量予測や作業適期の判定等への活用を期待しています。
株式会社松下商店
代表取締役 松下 茂夫 様
製菓・製パンの原材料卸問屋である当社では、鮮度の高いフルーツ加工品や生クリームなどを提供しているため、冷凍庫や冷蔵庫の温度管理はとても重要です。またお客様も材料保管の温度にシビアになっており、確実な温度管理が求められていました。
HACCPに準じた考え方に基づいた衛生管理を取り入れる必要があり、デモ体験したうえでアルスターの温度管理サービスの導入を決めました。導入後は、従業員の温度管理への意識が今まで以上に高くなり、冷凍冷蔵庫のドアの開け閉めが少なくなったほか、スマートフォンで温度が確認できるので休日の見回りが不要になりました。
適正な温度管理というのはお客様にとって当たり前なことだと思いますので、導入してから温度管理への信頼性が高くなったと感じます。
小山 正広さん
株式会社アルスター
長野県松本市大字和田4020番地25