事例紹介
INTERVIEW
高木建設株式会社
健康経営を通じて社員の働きがいと幸せに寄り添い、地域や社会に貢献する。
2023年3月17日
長野市安茂里で、土木・建築業を営む高木建設株式会社。「地域の方々の“安心・安全・便利”のために行っている事業は、すべてはSDGsに繋がる」という意識のもと、環境保全や地域貢献など、さまざまな取組を行ってきました。最近では、“人”にフォーカスした女性活躍の推進や健康経営にも力を入れています。現在、社内で中心となって取組を推進している常務取締役の高木亜矢子(たかぎ あやこ)さん(写真左)と、総務部の増田園加(ますた そのか)さん(写真右)に、具体的な取組やその背景についてお話を伺いました。*以下敬称略。
きっかけは、会社を存続させたいという思い
まずは、SDGsを意識して取組を始めた背景を教えていただけますか?
高木:もともと、父である社長が犬の散歩のついでに毎朝ゴミ拾いをしていたことがきっかけです。それを見た社員から「やりましょう」という声が上がり、月に1回ゴミ拾いや草刈りを始めました。そこから、会社全体で環境保全の意識やボランティア意識が根付いていき、いろいろな取組をするようになりました。
そのなかで、長野県のSDGsの推進企業登録制度が始まるということで、今まで実施してきた当社の活動をSDGsの17の目標にそれぞれ落とし込んでみたんです。すると小さな取組も意外と当てはまるとわかって驚きました。
意識せずにやってきたことが、実はSDGsの取組に繋がっていた、ということなのですね。
高木:はい。私たちの仕事自体、公共施設の建設や災害復旧など、公共工事の割合がとても多いので、地域や社会への貢献という文脈に繋がりやすいところはあると思います。そのおかげか、社員もそういった意識が根付いているような気がしますね。
今は高木さんが主体となってアイデアを出しながら、新しい取組を行っていると伺いました。
高木:そうですね。私は20年ほど前に、別の会社から高木建設に戻ってきました。当時は会社を継ぐつもりは微塵もなかったのですが、息子が生まれたときに考えが変わって。彼が選択するかはわからないけど、ただ、彼が大人になったときに選択肢の一つになるように、ちゃんとこの会社を存続させたいと思うようになったんです。
会社存続には、ともに働いてくれる社員の皆さんの存在が不可欠ですから、一人ひとりが働きがいを感じながら健康で楽しく働ける環境づくりのために新しいことに挑戦し続けています。
増田:私は一年ほど前に入社したばかりなので、常務から出る「これやりたい!」に対して、サポートする形で一緒にやっています。入社前に会社のサイトでなんとなく情報は見ていたのですが、実際に入ってみたら本当に取組の数が多くて、飽きないですね(笑)。
高木:やりたいという思いだけで、実際は私一人じゃどうもできないことも多いので、いつも本当に助かっています(笑)。
多様な人が自分らしく活躍できる環境を
ここからは、ぜひ具体的な取組について伺っていきたいのですが、最近特に力を入れているものはありますか?
高木:不平等をなくし、多様な人が十分に活躍できる環境づくりを目指して、ダイバーシティ経営に力を入れています。法定雇用率以上の障がい者の方々を雇用することで、多様な人材が十分に活躍できる環境の整備を図っています。
そこに取り組もうと思ったのはなぜですか?
高木:地域貢献の分野はすでに本業や他の活動で取り組んでいるので、それ以外に何かできないかと考えたのがきっかけです。そのなかで以前、障がい者の方を数名雇用している企業を訪問したとき、皆さん朝から晩までトイレ掃除をしていらっしゃるのを見て、すごくショックを受けてしまったんです。
もちろん皆さん自身が希望しているならいいのかもしれません。でも、うちでやるなら建設業の仕事の枠の中で、一緒にできることをお願いしたいという思いがあったため、現在他の社員にも協力を仰ぎながら少しずつ環境整備を進めているところです。こちらが勝手に「これくらいならできるかな」と思うのではなく、何でも一緒にやってみるというスタンスで、一人ひとりに合ったお仕事をお願いしています。なかには、現場に出ていらっしゃる方もいますね。
一人ひとりに寄り添っていることが伝わってきます。2021年には中小企業における健康経営優良法人として「ブライト500」にも認定されていますよね。
高木:はい。障がいを持つ方に限らず、誰もが働きやすい職場環境づくりとして、健康経営にも力を入れています。たとえば、女性が健康診断を受ける際に、乳がんや子宮がんなどの検査項目を追加する場合は一部を会社で補助していますし、社内で健康セミナーや体力測定、スポーツ大会などを実施しています。増田さんに「健康だより」を作ってもらって社内への周知も行っています。
増田:毎月、同じくブライト500の認定を受けている異業種の4社と合同で研究会を行っているのですが、そのなかで、喫煙率が下がらないという共通の課題がありました。そこで「健康だより」を活用し、禁煙プロジェクトの参加者を募って、喫煙率の低下を図りました。
他社と意見交換するなかで生まれるアイデアもあるのですね。
高木:はい。さらに現在は、更年期や生理の症状など女性の身体と健康に関するカルタを作っているところです。研究会の女性社員で課題を出し合って、一文字ずつ読み札と絵札を考えました。これは、職場の男性にも女性の困りごとを知ってもらうことで、もし具合が悪そうな人がいれば気軽に声をかけられる環境にしたいと思って生まれたアイデアです。
理解したい気持ちはあるけれど、知るきっかけがないという男性も多いですし、とてもいいアイデアですね。
高木:そうですね。同時に、役員や管理職の女性比率を高めていくこともとても重要だと考えています。建設業は男性のイメージが強い業界ですが、当社は現在、81名中13名が女性で、そのうち5名は現場で技術者として活躍してくれています。以前は結婚や出産に伴い、退職してしまうことがほとんどでしたが、今は仕事と家庭を両立できる環境づくりを進めているところです。
私が入社した頃は、作業着や設備は男性用のものしかありませんでしたが、今はきちんと女性用のサイズがありますし、現場に女性用のトイレも設置されるようになりました。業界全体としても、女性が働きやすい環境に変わってきつつあるのかなと思います。
取組が注目され、会社の認知と採用力が向上
さまざまな取組を進めるなかで、何か苦労したことはありますか?
高木:私、苦労したことを忘れてしまうんですよね(笑)。中には上手くいかなかったこともきっとあったと思うけれど、諦めないし、ダメでもまた次頑張ればいいかなって。ただみんなと一緒に楽しくやりたいという思いで、繰り返しチャレンジし続けています。
増田:常務は本当にいつもポジティブで、一緒にやっているこちらまで前向きな気持ちになるのですごくありがたいです。一つひとつの取組から思いが伝わりますし、こうして引っ張っていってくれる方がいるから社内の意識も高まっているのかなと。
私からもこうした取組を一緒にやりましょうと皆さんに声をかけると、結構乗り気で参加してくれて、社内コミュニケーションの一環にもなっていると思います。
高木:毎年、通信制高校の生徒さんたちと一緒に、会社の敷地内に平和と人権の象徴である「カンナ」の球根を植える活動をしたり、市内の中学校で職業体験イベントを行ったりしているのですが、そういう学校の生徒さんと関わるような取組は特にみんな楽しいと言ってくれています。
本業もあるなかで、それ以外の取組に社員の方たちが楽しみながら積極的に参加されているのが素晴らしいですね。
増田:通常の業務とは全く異なるからこそ、気分転換になっている部分も大きいんじゃないかなと思います。それで結果的に、何かに貢献できているのは気持ちがいいです。
高木:本当に社員の皆さんのおかげでここまでできていると思います。こうした取組を行うなかで、取材いただくことが増えて、外部発信の機会が多くなったのは嬉しいです。それによって当社を認知してもらえている感覚もありますし、毎年必ず新入社員の方を採用できているのでありがたいですね。
SDGsに関する取組を検討している企業さんの中には、何から始めていいのかわからないという方たちもいらっしゃいます。何かアドバイスはありますか?
高木:皆さん、難しく考えすぎているような気がして。いざ私たちが17の項目に振り分けてみたらすんなりできたように、事業活動は絶対にSDGsに繋がっていると思うので、今までやってきたことを一度整理してみていただけたら、見えてくるものがあるのではないでしょうか。
個人の引き出しを増やすことが、社会貢献に繋がる
引き続き新しいことに挑戦していかれると思いますが、今後の展望を教えてください。
高木:やはり社員の働きがいと生きがい、Well-being(ウェルビーイング)を高めていくことが一番ですね。社員の皆さんには、メインの業務以外に取り組む中でいろいろなことを感じながら、自分の引き出しを増やしていってほしいという思いがあります。
それが結果的に仕事や社会に還元されていきますし、当初からの目標である会社を存続させていくことにも繋がると思っています。
それにあたって、現状何か課題に感じていることはありますか?
高木:社内コミュニケーションはまだまだ課題ですね。いろいろな取組がコミュニケーションのきっかけになっているとは思いつつ、社員同士の交流やお互いを知る機会は少ないので、より促進していきたいと考えています。ストレスチェックの結果を見ても、心の健康という面でストレスを抱えている人もいるので、カウンセラーの先生によるセミナーを開催したり、「LINE WORKS」など気軽に発信ができるツールを導入したりしています。
増田:コミュニケーションを活性化するためのイベントはもう少し増えてもいいですよね。健康のための運動系の取組は多いのですが、向き不向きもあるので、より皆さんが楽しめるイベントを考えていきたいなと思います。
高木:そうですね。現在、コミュニケーションを活性化させるための新しい社内制度を順次作っているところです。今年4月からは、5名以上の会食をする際は会社で補助を出す「自己啓発コミュニケーション支援制度」を始めました。部署の飲み会はもちろん、バーベキューやキャンプなどでもOK。
ただ、コロナ禍の状況もありますし、飲み会自体があまり好きではない人もいるので、その場合は自己啓発として建設以外の資格取得を支援しています。ペン習字でも、スポーツの審判員でも、フラワーアレンジメントでも、引き出しが増えれば、その分世界も人間関係も広がり、本業に活きてくると考えています。
全く関係ないように見えても、何かのきっかけで仕事と結びつく可能性もありますもんね。できることが増えれば、個人の自己肯定感の向上にも繋がりそうです。
高木:そうですね。ゆくゆくは全員女性で現場仕事ができたら面白いなと思っています。職人さんも現場代理人も、全部女性。もしかしたら、男性ばかりの現場と比べて、できあがるものにも何か違いが生まれるかもしれません。それがいつか叶うような環境づくりに、これからも励んでいきたいですね。
高木建設株式会社
上水内郡小川村にて、昭和9年に創業。現在は長野市安茂里で土木・建築業を営む総合建設業者。学校校舎・体育館などの公共施設や、民間の福祉施設や保育園などを手がけるほか、「古き良きものを後世に伝えていきたい」という思いから古民家再生にも力を入れている。現在81名の社員が在籍しており、うち13名は女性。一級建築士の資格を持ち、現場で活躍している女性も。